平和を考える町で。
2025年5月17日
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笠間直穂子『山影の町から』を読んだ。フランス文学者である著者は都市空間である東京から埼玉県西部の秩父に移り住み、その場の生活を交えながら、日々の出来事や関わりあう植物や動物を丁寧に描き出す。

私はいま広島に来ている。京都を離れて撮影を中心として動くのは写真集の準備を始めて以来初めてかもしれない。2年ほどの間が空いて、珍しく西方向へと動いたのだ。新幹線の窓から見える景色がいつもと違うことは当然だが、山肌やそこに植生する木々の形や種類も違って見えた。高速で過ぎる窓の外、滑る山陰の印象が違った。

本書はその場の暮らしを中心としているが、私が印象的に思えたのはその終盤2編だった。ここには山影の暮らしは見え掛けするものの、場所に関わらず問題となるような、対する人へのメッセージが綴られている。暮れる陽を眺めるようなじんわりとした印象を持つ文体に付箋が増えて行く。どこに住もうとも考えることがある、個人的には窓を開ければ緑が見える実家を思い出すが、考えていたことには世の中に通底するような問題、あなたと私の距離の問題が多くあったと思う。

今夜は広島にいる。到着した矢先、目に触れた尾道ラーメン屋の列に並ぶ。あと少しで外の待ち椅子に座った。ふと見上げると誰かが立ち止まっている。不意に名前を呼ばれた。目の前に10年以上出会っていなかった友人がいた。よく分かったなと思いながら、再会を喜び同じテンプルでラーメンを啜った。不思議な時間、互いの生活に戻るように別れを告げる。それぞれの今を感じる。心地いい時間だった。

人は変化をするものだ。あなたも。地方に来ると大通りの成り立ちに個性があるようで楽しい。隙間に見つけたベンチに座り、ホテルに戻る前に空気に触れる時間を作ろうとカープ坊やがラベルに印刷された、甘い酎ハイを飲んでいる。