旅『ハノイ・ハロン湾』
2018年3月4日
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ベトナムに行ってきました。場所はハノイ。人生で初めての海外でした。機会がない。高校三年生の卒業旅行の行き先はオーストラリアだった。ワールドトレードセンターのテロがあった。それから卒業旅行の行き先は東京になった。テンションの高すぎない友達たちとウマがあった。心地のいい人たちだった。家族も出不精だ。遠くても北海道。初めての飛行機も20代の後半。トロトロときっかけは舞い込んでくる。誰かがいるから行くことが多い。日本のことも知らないし、行ったことのない日本に行きたい気持ちも強く、国内の旅で私の気持ちは十分に満たされていた。

昨年、職場の仲間と韓国に行く話があり、パスポートを取った。仲の良い人たちで、その二人が行こうとしているところに、相乗りしたい気持ちだった。「一緒に行く?」と社交辞令的に言われた記憶がある。「行けたらいいな」という程度の計画だったのかもしれない。「いつ行くの?」「行こうよ!」のような後押しも自分からはせず、何かのきっかけであると感じてとにかくパスポートを取ったのだ。その後、どうやらその計画は流れたらしく、仕事の休憩中の1回か2回だけ「そのような計画をしている」のような話を聞いただけで終わった。

パスポートが残った。パスポートが欲しかったのだ。きっかけが欲しかったのだ。きっかけの後に、次のきっかけを待つのか。きっとどんどんと流れて行くだろう1年が頭に浮かんだ。年が明けて1年の大枠としての計画を立てた。3月に海外旅行と書いた。今年も色々な場所に行くのだろうとは思いながらも、長い期間をかけていく旅の機会は限られている。夏は北海道に行きたいと思っている。その時以外にいける時はいつかと言えば3月。詳しく言うと2月の末から3月の最初にかけてだった。

行き先を決める。さて。きっかけのなさもそうだが、私自身は根っからの海外志向が皆無である。外国の音楽は好きでよく聞く。だが、そのアーティストがいるその国に行きたいと思ったことはない。だから、今も「この国に行きたい」と言う気持ちはない。

決め手のない選択というものがあることを知った。全世界に決め手がない。どうしたものかと思うけれど、決めなければどこにも行けない。ということで、消去法で行き先を決めていった。都会に興味なし。ヨーロッパは直感的に違う。建造物に興味なし。海外の美術館に行きたいわけでもない。観光地巡りをしたいわけでもない。なら行くな。おっしゃる通り。だが、どこかに行きたい。どうしよう。結局は「自分が興味を惹かれる写真に近い場所」ということになった。

ハノイはベトナムの中でも文化都市である。点々と湖があり、文化都市であるホーチミンに比べて洗練されていなさそうな感じに惹かれた。そして、世界遺産「ハロン湾」がある。ハロン湾は一つの湾の中に三千個近くの岩山や島が点在するなかなかの絶景。日本も含めて自然遺産に出向いたことがないことにも気づいた。知床と小笠原諸島には近いうちに行きたい。

さてベトナム。東南アジアは角田光代の旅行エッセイでも度々出てくるし、なんだか魅力的な場所であると思っていた。今思えばそこに書かれているような旅の仕方はなかなかに攻めていることがわかる。バックパッカーになりたいなんて全くわからない自分である。さてベトナム。タイに行きたいと思ったことも先に言っておく。タイは行っている人が多い。本当にその理由で早い段階で候補から外した。旅の目的は写真である。写真を撮っている人たちがよく行っているな。という印象がどこかであったのだ。僕も、私も、行った。それぞれ撮るものは違うけれども、できればあんまり行ってる人が少ない場所がいいなと思ったのだ。とはいえ、ベトナムは観光産業が盛んで、ホテル建設がラッシュだった。行く直前に気づいたけど、昨年、近しい写真家が夫婦で旅をしていたことも思い出した。誰が行ったかなんてことは些細なことである。

行く前はあれは必要か、これは必要か、あれも買わねが、入国審査ってなんだ、両替ってどうするんだ、なんて一人でする初めてなことの全てにグルンと頭がいっぱいになりそうになったけど、結局旅のギリギリまで仕事でグルンと一杯になり、準備もそこそこで出発前夜の寝る直前にスーツケースに心配の塊のようなギューギューの荷物を詰めて、予約をしていた空港への乗り合いタクシーに乗って出発をした。いまだから言えるが、持って行った荷物の半分で行けたことが分かった。

初めての海外一人旅には旅行会社のパッケージツアーを手配した。ハロン湾への道中が心配で「ハロン湾ツアー付き」を見つけてこれだと思い決めて行ったのだ。パッケージツアーなんてものは人生で初めてである。いいところも、これはなぁというところもあった。まぁもうツアーでは行かないなというのが正直なところ。その理由は目的外の工程が必ず入ってくることが一番。出会えてよかった家族(お母さん、お子さん、おばあちゃん)がいたし、すごくいいコンビのご夫婦がいたのも思い出深い。旅は自由。それが一番の魅力じゃないかなと思う。海外で一人でどこかへ行く力がないことが分かっていたので、今回の旅行はすごく身の丈に合っていたと思うけど、旅らしさが今回の旅には少し足りていなかったなと思った。

完全自由行動だった二日間は自分らしく旅らしかった。到着したハノイはすぐに日が暮れていった。少し休憩をしてから恐る恐る街を歩いてみた。知らない街で知らない国。原付はクラクションを鳴らしながら波のように流れてくる。3人乗り、4人乗り。ボコボコの道に薄暗い街灯。一歩二歩。スリや暴漢に気をつけろ。初日らしさいっぱいに、もう道が分からんぞと30分ほど歩いてホテルに帰った。初めての異国に来た緊張感。その時は気がきではなかったけど、その時間が一人だったのは貴重なものだったと思う。最終日の自由行動。無料で乗れる乗り合いバスの存在を知って、バスが来る15分前に乗り場に着く。待つ。時間を過ぎる。40分が過ぎる。バスは来なかった。日本人御用達のバスだったので日本語がわかるスタッフの人に聞くと今日は違う場所からバスが出発したということだった。なんと。次のバスは2時間後ということだ。なんと。2時間の自由行動だ。よっしゃ。と、近くの池まで散歩をした。池のそばの珈琲屋で珈琲を飲んだ。2時間後のバスはやっぱり予定より40分遅れてきた。目的の湖に到着して湖畔を歩いて、入ろうと思ったお店に入るのをやめて、湖の脇をひっきりなしに走って行く原付や釣り人を眺めていた。帰りのバスは予定通りに来てくれた。「予定の時間に来てくれるか」と出発前に念押ししたからかもしれない。ハノイに戻って一度は食べてみたかった現地民に人気のブンチャー屋さん(ベトナム風のつけ麺のようなもの)でご飯を食べた。お風呂イスに座って食べるブンチャー。ベトナムを噛みしめている感じだった。量が多すぎて付け合わせの香草盛りは残した。店を出てすぐ、水たまりに右足がハマった。改めてこの二日間は旅らしく自分らしかったと思う。

写真を撮りました。ハロン湾への行き帰りの6時間ほどは窓の外を撮り、ハノイは街路樹天国で、それはもう僕が求めていた洗練されていなさの最たるものでした。帰りのノイバイ空港に向かう乗り合いバスの車窓に現れた諸々は最高のご褒美だった。旅をして美味しいものが食べれればそれは凄く嬉しいけど、大きな目的にはならない。何よりひとり旅で美味しいご飯を食べても心の中で「うん、うまい」と呟くくらいが自分の最上級だ。

ハノイに行って得たものは、自分にとって旅に必要なものは何かということだった。自由に動くこと。その場で決めること。誰かと出会うこと。知ること。思い返すこと。そんなところ。多少困っているくらいが旅らしい。